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II. 主要業界の動向
III. 当地日系企業の経営課題
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日本人駐在員優遇に対する差別訴訟と日米友好通商航海条約
今年度、米国で注目を集めた日系企業の雇用問題として、丸紅米国の人種差別訴訟事件が挙げられるだろう。2005年1月の報道では、原告側の主張は、アメリカ人は働かないので、アジア人男性の雇用を指示したe-mailをはじめとして、主に、同社の雇用に関する非日本人差別に対する訴訟とされている。日系企業でも、全ての米国企業と同じく、黒人やヒスパニック、或いは、最近では回教徒に対する人種的な差別に関する訴訟が起こるが、日本人と非日本人の対比に関する差別訴訟は日系企業ならではの訴訟である。 米国では、Title VIIと呼ばれる公民権法が、人種、肌の色、宗教、性別、民族的出身による差別を禁じている。雇用法では、会社の規模等によって多少の差異があるが、家系、妊娠、宗派、年齢、婚姻種別、兵役状態、責務遂行能力に支障をきたさない心身障害などを理由とする差別も、法に抵触する。最近では、米国における日系企業でも、嫌がらせ、揶揄といった能動的な差別行為だけでなく、これらを理由とする雇用的な決定は違法であるという理解が浸透してきている。中でも、人種差別に関しては、差別してはならない法律に対する認識と、うっかり行ってしまう差別的な言動や、払拭の難しい偏見といった日常的な現実は、米国の日本人ビジネスマンにとっても、お馴染みの話題といえるだろう。ところが、その人種差別が、日系企業での日本人と非日本人の格差である場合、必ずしも公民権法違反とならない場合があり得る。日本に本拠を持つ米国の日系企業は、日本の本社の定めた日本人管理職、専門職、弁護士、会計士等を米国内で用いることが出来ると、日米友好通商航海条約に認められているからである。 日米友好通商航海条約は、日米両国の貿易発展を目的として、1953年に実施された条約である。同条約第8条1項は、「いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、自己が選んだ会計士その他の技術者、高級職員、弁護士、代理を業とする者その他の専門家を用いることを許される」としている。即ち、米人マネージャーが解雇され、日本人マネージャーが同様の処遇を受けなかったことは人種差別である、という訴えが起きた場合、これはTitle VIIに反する人種差別行為ではなく、同条約に沿った日米の貿易を促進させる目的のビジネス上の決断である、という論旨での抗弁が成り立つのである。ちなみに、多くの日本人駐在員が利用しているEビザも、この条約を基にして、日米の貿易促進を目指して発行されている。 同条約によって、日本人マネージャーの優遇差別の訴えを退けたものとしては、イリノイで行われた1986年のクェーザー事件が挙げられる。ここでは、米人マネージャーの解雇時に、日本人マネージャーが解雇されなかった日本人優遇差別が、日米友好通商航海条約によって否定されている。逆に、1982年の住友商事、伊藤忠に対する訴訟のように、現地法人を日本国法人の分子ではなく、独立した米国企業として、同条約の保護を否定している例もある。また、1996年、カリフォルニア州裁判所で審理された日航ホテル事件では、「1953年の日米友好通商航海条約は、日本企業の米国子会社にはあてはまらない」としている。「日米友好商事航海条約の主旨は、日本の企業が米国子会社を別個に作らず、直接アメリカで事業を行う場合のみに適用され、子会社は、一般のアメリカの会社と同様、アメリカの公民権法を遵守する義務を課せられる」という解釈をしている。この判例からすると、日本企業の米国子会社だからという理由で、他州で日米友好商事航海条約による抗弁が使えても、カリフォルニア州では、日本国法人の支店、出張所等でなければ、この抗弁は使えないことになる。 従って、クェーザー事件の判例に依存し、日米友好通商航海条約による日本人優遇の保護を期待するのであれば、同条項が約束しているのは、「日本側が必要とする」「日本人管理職、専門家を選択してよい」ことである点に、注意しなければならない。日米友好通商航海条約による日本人優遇の肯定には、日本側の裁量の大きさが不可欠な要素となるからである。従って、雇用の決定が全て米国で行われていたり、現地採用者、日本の会社との関係を資格に必要としないHビザでの就労者には、日米友好通商航海条約による保護は期待できないことになる。 しかしながら、今回の丸紅米国の訴訟では、日本人駐在員の優遇ではなく、会社側の非日本人に対する不信と、人種だけに限らない差別的な社風が、訴えの主旨となっている。これは、本件に限ることなく、アメリカ人側から、よく耳にする代表的な苦情である。同訴訟の訴えの中にもあるが、英語が話せるのに日本語だけで話す、日本人だけの会議をする、非日本人に対して排他的といった苦情は、恐らくどの日系企業でも米人社員の不満となっていると言ってよいだろう。また、個人的知り合いのアメリカ人から、彼女の働く日系企業では、所謂事務員に該当する職には「金髪碧眼の若い白人女性しか雇わないらしい。仕事の能力は関係ない」と言われたときは返答に困ったが、似たような話は比較的良く聞く。日本企業に対する非日本人差別が持ち上がる際、真に問題なのは、日本人駐在員優遇が日米友好通商航海条約の保護下か、否か、ということではなく、こうした体制が米人社員の不満を募らせ、何らかの火種によって、爆発の危険をはらむところにある。 同事件は、米国側の報道が、外国企業の母国偏重主義を論じる一方で、どこまでが日本の親会社の裁量によるビジネス的な決断とされるのか、どこまでが日米友好通商航海条約に保護される日本人の優待であるのか、米国の日系企業にとっても、大きな注目を集める訴訟となることは間違いない。しかし、こうした訴訟で原告側が勝訴した場合、似たような訴訟が次々に提起されることも予想される。 日米友好通商航海条約の成立年を見れば、同条約がサンフランシスコ講和条約、日米安保条約を初めとした、当時の日米間の条約の一つであり、敗戦日本を米国の占領から開放し、米国の一般企業が日本の地で起業するために、米国側が必要とした日米両国に公平な取り決めであることがわかる。この条約によって、現在、米国で、公民権法を覆してまでも日本人駐在員優遇を認められるということは、真の意味で、同条約の公平さと、日米関係が通商上、友好関係であることを物語っているだろう。自社の日本人駐在員に対する優遇措置が、日米友好通商航海条約の保護下か、否かを取り沙汰する前に、同条約が差別という違法行為を保護しないことを認識し、ビジネス上の目的での日本人駐在員優遇が、社内で他の不満を募らせるものとならないように心がけたい。 |