A. 群を抜く巨大市場アメリカ
米国の国土面積は日本の25倍、人口は2倍、GNPも2倍と一般的に把えられますが、具体的に一つの商品を販売してゆく上で、どう違ってくるのか、産業用量産品のマーケッティングに関連して考えてみます。
市場分散性
(1)地理的広大さ
先ず第一に日本と大きく異なる点は、その地理的面積の違いです。単に25倍の広さと言うと、直線になおすと√25=5で、5倍の距離かと考えられますが、実際は日本には国土の67%約2/3を占める山地があるので、2−3の大きな平野部などに市場と人口が集中し、あとは中央を走る連山と海岸線の間に市場がネックレスのうようにつながっていると把えられます。
米国は、ロッキーとアパラチア山脈以外は殆どが平野でなり立っていますから、線としてよりは面として把える必要があります。日本より倍以上の比率で平地の多い国ですから、実質は約50倍以上の盆にあずきをバまいたように市場が点在し、これらを高速道路網が連結していると考えたほうが判り易いのです。
(2)公共交通機関の欠如
鉄道とバスが網の目のように発達した日本で考えにくい事は、この広大な面積を目的地に行く為には、飛行機を使うか車で走るしかないという事実です。限られた距離を往復するにはニューヨーク周辺とか、シカゴには電車が走っていますが、これらは殆ど通勤用と云ってよく、出張者が使うには慣れるまでは難しく、全米の視点でみると忙しいビジネスマンは飛ぶか車かしかないと云えます。
これが販売・流通上でディーラーやレップ(特約販売代理店)を使わざるを得ない理由の一つです。つまり、自社の社員が出張するには経費が掛かり過ぎる為です。
(3)市場分散性
少し古い資料ですが、1986年にディーラーを通じて販売された工業用品(機器から部品まで含む)の地域別販売額の全米でのシェア−が「トップ100カウンティ」です(表1参照)。
表1: 売上シェアーでみたトップ100カウンティ

地域は市より広い郡で表されていますが、一位のクックはシカゴを中心とし、三位のウェインはデトロイト地域です。
日本との大きな違いは、このクック郡の(クック郡は東京都の面積より広い)全米でのシェアが4%でしかなく、1〜10位迄の合計が19.26%、1〜50位迄でやっと46.71%、全米市場の半分弱という事実でしょう。
更に、この点を明確にするためにシカゴを中心に、東京―大阪間の距離であるシカゴ・デトロイトを半径とする円を描いてみると、その面積はミシガン湖の面積を除くとほぼ日本の面積に相当します。この小円内に入るトップ50郡に入るものは15郡で、この全米でのシェアは15.78%となり、トップ100郡に入る更に4郡を加えても17.50%です(第一地図参照)。

それでは、半径がシカゴ−デトロイトの倍の東京−福岡の半径、つまり日本の面積の4倍に拡大してみましょう。トップ50郡に入るものは8郡増えシェアで5.22%増しとなり、トップ100郡迄に入る8郡の3.09%も加えてると、全部で25.36%のシェアとなります(第二地図参照)。

通常は小円のトップ100郡に入る19郡17.05%をつぶし、次の小円内の19郡に近い大円内の郡に拡大してゆくのが通常でしょう。
これから、分散した面で把える市場では、ディーラーに依存せざるを得ないという市場特性があること、陸上輸送コストが非常に重要なポイントとなるので、重量を減らす工夫や梱包寸法を減らす努力が大切となる点も見逃せません。
B. ディーラーの立場が強い米国市場
1. ディーラー網の設定
(1) 市場規模の確認
ディーラーを設定する前に、全米の市場規模の大きさを確認し、その市場での有力メーカーがどの程度のシェアであるか、概略でも把んでから、ディーラーの設定方針を決めるのが通常です。
仮にAという商品の全米での市場規模が1億ドルの業界にて販売する場合、シェア目標を10%とし、5年で達成するとしても一つの地域で100%とる訳にはいきませんので、ディーラーの数によって売上高は変わってきます。
前述の小円の部分で、15社のディーラーを契約した場合、この地域のシェアは約16%ですから、1億ドルX10%X16%つまり年間160万ドルとなります。
10%シェアに達するには、知名度と評判がある程度浸透してからでないと難しく、通常3〜5年間、相当の広告を継続して行い、しかも品質・性能・サービスが満足であるというユーザー側の評価が確立して後のことになります。
この売上高では不足だという場合、ロサンゼルス、ニューヨーク、アトランタ、ダラスなどの遠隔地にもディーラー設定をしてディーラー数を増やし、売上高の増大を図るか、同一地域での大円の方へディーラー展開するかは、販売予算と商品とによって分かれます。
(2) ディーラー設定の特色
全米市場の1%以上の市場規模をもつ12大都市を別にすると、例えば88位のサミット郡(アクロン市)のシェアは0.28%ですから、年間28万ドルでしかありません。この市場に何社のディーラーが存在できるかと考えると、大手メーカーもディーラーを持っていない穴場である場合と、ディーラーがあっても多数のメーカーの商品を扱っている場合とのどちらかしか考えられません。
大手三大メーカーが分け合っている場合は、一つのディーラーのその商品の売上は平均年9万ドルでしかなく、当然それだけでは経営が成り立たないので、一つのディーラーが、三大メーカーの競合品を全て扱う場合もあります。松下・東芝・三菱の全てを扱うようなものでしょう。消費者向商品でない産業用品ではこのようなことは日本では考えにくいことですが、単位市場規模の小さい米国では、ディーラーが強い立場にある理由でしょう。
ディーラーを一定地域内で選び(または選ばれる)、契約するまでには、その地域の全てのディーラーの扱い商品構成、信用調査、こちらの商品への関心度などを調べ、数社に絞り込んだ上で訪問し一社に決める訳ですが、条件が合わず契約できないこともままあります。一社のディーラーを設定するには、近辺で3,000ドル、遠隔地で5,000ドルの経費が掛かるといわれるのも、最低二、三度の出張を要する絞り込みと数社の面談等のためです。
全米に50社のディーラー網を作るには、出張経費分で25万ドル、100社なら50万ドルが必要となります。
(3)メーカー・ディーラー関係
もう一つの特色は、メーカーとディーラーの関係は流動的である場合が多いことです。品揃えの広いあるメーカー一社の商品と部品在庫を何百万ドルもかかえる大手ディーラーは、そのメーカーと長く独占的な関係を保つことが多いのですが、そういう例外的大手以外は、3〜5年で別れて新しいメーカーに切替ることが日常行われます。この原因の一つは、メーカーのセールスマンがディーラーのオーナーと親しい関係にあって、そのセールスマンが他のメーカーに転職したりすると、そのセールスマンを信用しているオーナーはメーカーを切り替えてもそのセールスマンを信用する方をとるからです。他の原因はクレーム処理などでの処置が円満にいかぬ場合で、要するにメーカーとディーラーの関係は夫婦のようで結婚・離婚があり、セールスマンとの関係は浪花節的です。
ディーラーはすべてが同じ規模と実力があるわけではありません。ある地域でのトップ2−3社とボットムとでは10−20倍の開きがあります。建機を例に挙げると、トップクラスは2−3億ドルの年商を持ち、複数の支店を抱えて自家用機やヘリコプターを持っています。こういうディーラーは、一流メーカー品を扱っています。
従って、知名度の低い内は、三流ディーラーなどしか把めませんが、評判が高まるにつれて、二流、更には一流ディーラーも契約できるようになり、地位の向上が良いディーラーへの切替となり、売上も伸びてくる結果となります。ディーラー網の基礎作りに3年、アップグレードしていくのに3−5年、約6−8年が掛かると見てよいでしょう。
競合メーカーのディーラーは、結婚したものとあきらめずに眺め続け、別れたとたんに飛んでゆく気の永い忍耐が必要です。メーカーとしては売らないディーラーは切って売るほうに切り替えたい。ディーラーも売れる商品に切り替えたい。年に一度の業界のコンベンションは、新商品を発掘するだけでなく、お見合いの場でもあります。この辺は終身雇用ではない個人の雇用関係と非常に似た点がある契約社会ということかもしれません。最もトップクラスのディーラーの場合は特定メーカーと何世代も続く関係を保っています。
2. 自由競争の原理
米国の独禁法と不公正取引を禁ずる法律は、基本的に自由競争がユーザー(消費者)の利益になるという理念に基づくもので、メーカーとディーラーの関係では、
- ディーラーの販売地域を制限してはならないこと
- ディーラーの再販価格を制限してはならないこと
という二点です。
販売地域を制限しないが、テリトリー(販売地域)という言葉が使われるのは、その地域内にメーカーは他のディーラーを設定しないという約束と考えてよく問題となるのはユーザーが他地域の同じメーカーのディーラーからも見積りをとる場合で、ディーラー間の利害調停の仕方が難しく不満やトラブルの原因となります。
3. 「継続は力なり」でディーラーと付き合え
広告とサービス体制
(a) 広告の重要性
先述した通り、市場が分散しているため、消費者向商品以外はテレビ広告は高価すぎて使われず、専門誌・職業別電話帳・ラジオ等が主たる媒体として用いられます。業界の展示会への出展も欠かせません。
メーカーが全国誌に出す広告の他に、ディーラーの行う広告の支援も要求されます。
ユーザーとしては、継続的に広告を出しているメーカーのものは売れているから広告が出せるのだろうという、広告を出せる力にたいする信頼があることも見逃せない事実です。ディーラーも広告を何度も見ている内にそのメーカーへの信用を増すことから、ディーラー設定もし易しくなりますので広告は大変重要です。
(b) サービス体制と信頼
ユーザーが商品の選択をする場合、性能(仕様)が同程度である場合、サービス体制と品質、その次に価格という事でディーラーのサービス力は重要です。ディーラーのサービス力を上げるため、メーカーとしては部品在庫(24時間以内に相手に届けうる能力)、保守・修理のトレーニング、マニュアルの完備が必要です。大手の一流ディーラーはメーカーの部品在庫とサービス体制を見てからでないと契約しないケースも珍しくありません。
信頼には、継続できる力も含まれ、「継続は力なり」ではありませんが、良いディーラー程こちらの耐久力を時間をかけて測るようなところがありますので2〜3年は忍の一字で努力を続けることが将来を作ると信じるしかないと云えましょう。
一つのディーラーとのトラブルは、そのディーラーは他地域のディーラー仲間との情報交換が非常に速いため、悪い評判が立つとディーラー設定の大きな障害となります。逆に良いものは良いとして、殆どは、フェアに評価してくれます。
C. 小市場への進出は期を待て
1. ディーラー網を作り上げる迄の必要経費
(1)販売資料の作成
- ディーラーDM用フライヤー(二つ折または三つ折、一枚カタログ)
- 各機種の仕様、特色などを詳述したカタログ(4〜8頁)
- ユーザー用操作要領(オペレーション・マニュアル)
- ディーラー用保守・修理要領(メンテナンス・マニュアル、リペア・マニュアル)
- 部品価格表
- 保証書(更に保証期間サービス標準時間リスト)
- 広告文とアートワーク
- ディーラー契約書(テリトリー・マップ付)
上記を英文で準備するのに約半年かかります。二名X1/2年X$50,000=$50,000
(2)広告料
- 全国誌 二色:2誌X年6回X$7,000=$84,000
- 地方誌 二色:2誌X年12回X$1,500=$36,000
- DM(自社及ディーラー広告のメーカー分担)$1,000X6回X10社=$60,000
- 展示会出品 2回X$10,000=$20,000(10‘X20’X小コマ) $94,000
(3)人件費・付帯経費
- セールス・マネージャー(商品により異なる) $100,000―150,000
- サービス・マン $55,000
- セールス・クラーク $30,000
- 付帯経費(健保・出張費・会社経費)だいたい人件費同額 $185,000−250,000
小計$370,000−485,000
概算総計 $400,000−500,000/年
だいたい上記が最小必要予算となります。
2. −ディーラー設定の判断
(1)販売網と売上高
従って、米国での販売(ディーラー)価格の20%のマージン(荒利)率で販売すると、500,000÷0.2=2,500,000ドルの売上で、採算分岐点(ブレーク・イーブン)に達します。
ゼロからスタートする訳ですから、1年目0.5%、3年で3%、5年で5%のシェアが妥当というよりは、精一杯と考えたほうが良く、全米で年間1億ドルの商品市場ですと、トップ50郡全てにディーラーを作ると、46.7%の市場、つまり全体で46.7百万ドルの市場に参加したことになります。100郡なら64.3百万ドルの市場です。これの3.8%のシェアをとれば、1,928千ドルとなり、やっと分岐点に達する訳です。しかし、これは理論的にはそうなる筈だということで、実際には実現が難しいのです。
何故かという理由は、それほど多数のディーラーがいないからです。儲からないのにメーカーの誘いに乗ってディーラーを始めるということは無いからです。ディーラーは各自が自分のリスクと採算計算でビジネスをしているわけですから。
百位のカリフォルニア州サクラメント市を例にとると、この町のシェアは0.25%、つまり年間25万ドルでしかなく、二社しかディーラーがないとすると大手三大メーカーが、一つのディーラーに二大メーカー品を、もう一つのディーラーに三番目のメーカー品が扱われていて、入っていく余地がないような地域がままあり、そういう地域への進出は、待ちしかないからです。
無理に出ていっても、仮にサクラメント市場の1/4をとっても、6万ドルですからディーラーとしては二割の荒利とすると年間で12,000ドル、月当たり千ドルにしかならないので、本気で拡販するだけの経済規模がないからです。
余程の優れた特色や、性能のある商品を別とすれば、年間の市場規模が1億ドル以下の商品でディーラーを通じて売られる産業用の商品は成功するのが難しい理由は、この辺にある訳です。
(2)日本人出向者の権限
日本からの会社の中で、米国式の営業基本が理解でき、ある程度の経験をもった日本本社からの人材を複数養成することは不可欠です。しかし現地法人の営業マネージメントを日本人だけで固めると、競争相手が米人を責任者として運営している場合は、言葉の面、人種面、人脈面、権限委譲とやりがいの面などで、どうしても不利になり、人材を集める能力面での差が長期的には出てきます。売上が一定以上伸びが出来なくなるというマーケッティング以外の問題ですが、これはこの小文では触れません。
又、ディーラー網とは別なレップなどの販売形態もあります。又自前の販売網は持たなくても、市場の要求が直接入手できるITシステムがあれば、OEMとして既に販売網を持っている会社に販売先を絞ろうかとか、販売網を持った会社を買収しようとかの代案も出てくる筈ですが、それもこれも、先ず市場規模の調査が重要であることが、お判りいただけるかと思います。
以上米国でのマーケッティングの基本について述べました。しかしルールが分かれば大リーグに入って明日からプロの試合で勝てるかとなると別問題です。
それには常日頃の練習や、実力の向上が不可欠です。フリーエージェント制などを導入して、力のある現地の人材を惹きつけうる経営者の方針と、それを理解して、現地・現場の人間が光り、実力を発揮できるようにする本社からの中間マネージャーの存在が不可欠です。
そこまでは自社社員の成長を待たねば、他社からスカウトした米人に営業も経営も任せることは難しいといえます。
|