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好アクセスとインフラの充実が魅力
米国中西部のビジネス環境


「日経ビジネス2003年9/1号より抜粋」



    9月7日から9月9日まで、イリノイ州シカゴにおいて、第35回日本・米国中西部会 日米合同会議が開催される。今回のテーマは、「New Technologies」。技術革新を通した新たな日米協力関係に向けて、活発な議論が交わされる予定だ。日本企業も多く進出している米国中西部とはどんなところなのか。実際に進出している日系企業の声を聞きながら、中西部のビジネス環境を紹介しよう。

「二つの顔を持つ中西部の産業」
    中西部の産業は2つの顔を持つ。ミシガン、ヒューロン、エリー湖周辺はアメリカ産業の要となっている大工業地帯を形成。GM、フォード、ダイムラー・クライスラーの本拠地がある。ミシガン湖の西には世界の食糧源といわれる農業地帯が広がる。コーン、大豆、小麦などが生産され、農業大国アメリカの象徴ともなっている。
    アメリカ経済の先行きが不安視される中、中西部での企業の投資は引き続き活発だ。2002年はイリノイ州のシカゴ、ミシガン州のデトロイト、そしてオハイオ州のシンシナティ3都市の投資額は211億ドルと同年のニューヨーク市の4倍に近い。
     中西部に進出する日系企業の多くは、自動車関連の製造業だ。中西部全体の事業所数や従業員数は昨年より減少しているものの、インディアナ州やミシガン州の自動車関連工場においては従業員が増加しているところもある。


「ミシガンでマツダは工場拡大へ」
    米産業情報誌、サイトセレクションが毎年行っている「ガバナーズ・カップ」というランキングがある。100万ドル以上の新規、もしくは追加投資に加え、50人以上の雇用または2万平方フィート以上の敷地拡張がされた州内の新規ビジネスの数を競うのだ。2002年の調査では、1位は835件のイリノイ州で、僅差の832件でミシガン州は堂々の2位。
    州内でも注目を集めたのは、フラットロック市にあるフォード・モーターとマツダのジョイントベンチャー、AAI(オートアライアンス・インターナショナル)の工場拡張だ。ニューモデル開発のため6億4千4百万ドルの追加投資を行う一方、1900人の現従業員に加え、新たに1400人の新規雇用を予定している。
    日系企業の動向について、デトロイト日本商工会議所中浜昭太郎事務局長は「日本語の補習校に通う児童数が7-800人だったのが1000人を超え、特に低学年の児童数が増加。駐在員の若年化が進んでいることがわかる。各社ともに若い世代から経験を積ませようという考えはもちろんのこと、昔のように事務所の駐在という感覚ではなく、ここをアメリカの拠点として意識するようになった。こうした部分にもグローバル化は表れている」と語る。


「ビジネス都市としてのシカゴ」
    今回の日本・米国中西部会 日米合同会議が行われるシカゴ。もともとシカゴ証券取引所やシカゴ商品取引所など全米最大規模の取引所を持ち、経済を語る上でも欠かせない都市であったが、近年は特に活況に満ちている。産業情報誌サイトセレクションでは“2002年に新規または拡張された施設件数トップ10”で1位にランク(574件)され、ビジネス拡張のための投資額でもニューヨークの約2倍、130億6千2百万ドルと首位に位置付けられている。
    シカゴ市の官民一体経済開発公社、ワールド・ビジネス・シカゴの局長であるポール・オコーナー氏によれば「一番の理由は3500億ドルを稼ぎ出すビジネスが様々な分野に分かれているということだ。
    立地条件やインフラの充実も強力な武器となっている。航空輸送、ビジネス・トラベル、流通、製造、ビジネス・サービスではリーダー的な存在で、貨物取り扱い中継地点として、シカゴはシンガポール、香港についで世界第3の都市となっている。世界的に見ても情報通信のインフラが最も発達した都市でもある。一日のデータのやり取りは世界一の量だ」という。
    シカゴには日本を始め世界の多くの国の企業が進出している。中でも特筆すべきは医薬品製造業だ。事業所数は前年と同じく6事業所だが、従業員数は9.9%増加し4千810人となった。免疫抑制剤“プログラフ”で認知度の高いフジサワ・ヘルスケア・インクや、1998年の設立以来、短期間で従業員数を1700人まで増やした武田ファーマシューティカルズ・ノースアメリカは日系企業の間だけでなく、全米から注目の的となっている。


「日系企業が評価するシカゴのビジネス環境」
    シカゴ日本商工会議所の業況調査によれば、日系企業が高く評価するビジネス環境として“各都市への直行便の多さ”が挙げられている。ワールド・ビジネス・シカゴによればシカゴからは全米の主要都市に4時間以内に到着することができ、国内直行便は139便、海外へは43都市への直行便があるという。
    「日系企業がシカゴを選ぶ理由は都市の持っている総合力ではないかと思います。すべてが平均以上。日系社会の規模も大きいし、日本語学校の双葉会という全日校も補習校もある。駐在員を派遣しやすい環境が整っています」とは斉藤進同会議所事務局長の弁である。
    また、「地震などの災害が少なく、電力が安定してしかも安価な場所という条件に合致している」と語るのはシカゴ郊外ベルビデアで水晶の育成工場を構える日本電波工業だ。ビジネスの成功には、立地条件は欠かせないものであるが、産業基盤、交通、教育、安全性が整うシカゴに、多くの企業が魅了されるのも頷ける。


◇進出日本企業ケーススタディー 1◇
<インクス・インターナショナル>
    100年以上も前から日本でインキを生業とし、印刷用インクの大手であるサカタインクスがアメリカに進出したのは35年前だ。当時、同社では電子部品の販売を行っていたが、1980年代中頃には、インキでのグローバル化の道を模索し始め、アメリカにおいて水性インキを独占していた米会社、アクメを買収。オヘア空港近くのエルクグローブビレッジに、米国現地法人インクス・インターナショナルを構えた。
    「当時、環境への配慮から、アメリカの缶用インキは油性から水性への転換期にありました。日本では漢字の印刷や、品質面での問題から、クリアさが勝る油性がまだまだ使われていましたが、世界的な需要が期待される水性インキの技術を持つアクメの強みがとても魅力的でした」と松澤三雄会長は振り返る。
    缶用のインキのシェアを全米の70%から80%まで伸ばすことに成功。その推進力になったのは顧客へのサービスだったという。その一例がインプラントである。顧客の工場に従業員を常駐させ、要求された色をその場で調色、在庫管理を引き受けたりもした。 
     「アメリカの持つ技術に、日本の技術を加えると、より大きな効果が得られるのです。例えばサカタインクスは日本で新聞用のインキを行っていて、高速回転で印刷した場合、しぶきが立たない技術を持っています。それを缶用のインキにも応用させ、印刷のスピードを上げても高品質が保てるように改良を加えました。また環境保全を重視し、インキを製造する際に有害ガスがほとんど出ないローVOCの缶用インキを日本の技術者が開発しました。缶インキメーカーの先駆者として、当社の技術が社会に対しどのように貢献できるかこれからも追求したい」と松澤氏は語る。


◇進出日本企業ケーススタディー 2◇
<クボタ・エンジン・アメリカ>
    シカゴから車で約40分、リンカーンシャイアーに本社を構えるクボタ・エンジン・アメリカの設立は1998年と新しい。小型ディーゼルエンジンを専門に扱う同社の販売総数は年間約15万台に上る。
    「アメリカにはトラックなどに使用される大型ディーゼルエンジンを作るメーカーはたくさんありますが、日本のように狭い農地で使用する農業機械に必要な小型のディーゼルエンジンは遅れており、100馬力以下のエンジンが必要な製品にはガソリンエンジンが使われていました」と田畑芳彦社長は振り返る。
    とはいえ、芝刈り機や小回りの利く小型建設機械には、長時間使用に耐えられる丈夫なディーセルエンジンへの需要は十分に見込めると考えたクボタは、他社に先駆けて20年前にアメリカへの売り込みを開始した。
    「セールスと同時に全米にディストリビューターのセット・アップもしました。基本的に普通の自動車以外のエンジンは故障したらディストリビューターが修理しますが、エンドユーザーにとってはメーカーがどれだけサービスネットワークを持っているかが大切になってくるわけです。早く進出したためにいいディストリビューターを持てたことも今の成功につながっていると思えます」(田畑氏)。
    クボタの小型ディーゼル・エンジンの全米シェアは約40%。日本勢、ヨーロッパ勢を抑えてダントツのトップである。
    「2004年、2008年と連邦環境庁EPAの排気ガス規制が非常に厳しくなっていくため今後も企業努力は欠かせません。基準をパスするには、エンジンの基本的なデザインから変えなければいけない事態もあると覚悟しています。対応できないメーカーは脱落していかざるを得ないでしょう」と田畑氏の眼差しは未来に向けられていた。


◇進出日本企業ケーススタディー 3 ◇
<オムロン・ヘルスケア>
    シカゴ北郊外のバーノン・ヒルズ。良く手入れされた芝生がまぶしい、公園のような敷地の一角にオムロン・ヘルスケアの本社がある。北南米セールス&マーケティングを統括している。
    主力商品はファジーロジックを取り入れた“インテリセンス血圧計”だ。年間売り上げ1億ドルのうち7千万ドルを占める。家庭用血圧計では世界シェア60%、特にアメリカでは70%のシェアを誇り、今でも数字を伸ばしている。
    愛用者カードなどで独自の調査を行ったところ、購入者の約8割の人が“血圧計を選ぶときは自分で選ぶより医師や薬剤師の言葉に頼る”ことがわかった。アメリカは処方箋を医者からもらい自分で薬を購入するから、特に行きつけの薬局の薬剤師さんとのつながりが強い。「薬剤師の会合を見つけては、血圧とは何か、血圧計の正しい使用方法など啓蒙してきました」と語るのは会長兼CEOの斉藤一男氏だ。
    今ではアメリカの薬剤師業界紙“ファーマシー・タイムズ”(6月号)で、薬剤師が推奨する血圧計ブランドとしてオムロンの名前をあげる薬剤師が62.5%を占めるという統計が発表されるまでになった。
    「弊社の血圧計は他よりも価格が少々高いと感じるかもしれません。しかし、精度、使いやすさという品質を追求していった結果が皆さんに認められていると思います。アメリカの消費財返品率というのは10%が相場といわれていますが、オムロンの血圧計は平均5%。小売業界でも安心して販売できると評価されています」(斉藤氏)。
    安さが求められた時代から、時代は高品質を追及する時代へ向かっている、斉藤氏の言葉はそのことをまさに実感させた。







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