■成人病とは
"成人病"と言う言葉は様々に使わ
れていますが、心血管系疾患(動脈硬
化で主要臓器の血管が閉塞して起こる
病気、すなわち、心筋梗塞と脳梗塞)
と、その危険因子を総合して捉えた言
葉です。これらの疾患は、悪性新生物
(ガン)と成人の死亡原因を二分して
います。
■心血管系疾患
心血管系疾患については、疫学的研
究から、下記のような危険因子が確立
されてきました。
ここで脳梗塞に関しては、血圧との因
果関係がより直接的だということが証明
され、実際食塩感
受性に血圧の上昇する日本人では、減
塩の啓蒙につれて、脳梗塞(および脳
出血)の頻度は劇的に減少しました。
■心筋梗塞
一方心筋梗塞においては、充分な降圧
にもかかわらず、期待されただけの発病
の低下は認められませんでした。
もう一度「心血管系疾患の危険因子」
良く見てみますと、これらの危険因子
が一見個々に独立しているようであり
ながら、「なんだかそんな人、いそう
だな」ということに気付きます。
ちょっと小太りで仕事も精力的、酒もタバコ
も結構なもの、でも今まで病気な
んてしたことがない。
ただ毎年の社内
健康診断ではコレステロールとか中性
脂肪はいつも*印、良く聞けば親父さ
んも糖尿病と高血圧らしい、あいつも
そろそろ気を付けた方が...。こうし
たハイリスク群に対し1988年に、
Reavenが、Syndrome Xと言う概念を、
翌1989年にはKaplanが、Deadly
Quartet(死の四重奏)を提唱し、耐
糖能低下、高血圧、肥満、高脂血症の
合併は、心筋梗塞の発症リスクを相乗
的に高めるとして注意を喚起しました。
現在、この概念は、インスリン抵抗性
症候群としてまとめられています。
インスリンは、ブドウ糖を細胞内に取り
込むために必須の膵臓からでる大切な
ホルモンて、この働きが悪くなり、さら
に産成が低下するのが糖尿病の本態で
すが、糖尿病を発症していなくても、
高血圧を有する群では、厳密に測定す
るとインスリンの効きが悪く、一定量
のブドウ糖を消費することにより多く
のインスリンを必要とすることがわか
りました。さらにこの傾向は、高血圧
の家族歴を有する正常血圧の若年者で
も既に認められることが報告され、こ
のような異常は、遺伝的に規定されて
いると考えられています。
■なぜ今、成人病予防なのか
ではなぜ今、成人病予防なのでしよ
うか。
それは、改善可能な危険因子の
コントロールによって実際に心筋梗塞
の発症を抑えることが出来るからです。
インスリン低抗性も、肥満の改善や運
動療法、さらに一部の降圧薬で改善す
ることがわかっていますので、遺伝要
素があるとはいえ、やはり改善可能な
危険困子のひとつです。
発癌の研究も
かなり進歩していますが、一口にがん
といっても臓器により性格が全く異な
りますし、心筋梗塞における危険因子
の改善ほどの明確な効果のある対策の
確立は、残念ながらまだもう少し先に
なりそうです。
■健康診断で早期発見
したがって、健康診断の2大目的は、
心血管疾患の危険因子の状態のチェッ
クと、悪性新生物その他の早期発見に
あります。
検査項目は、限られた検査
でより多くの異常を検出できるよう工
夫されています。
また、問診などにより、
個人の状況を出来るだけ多く把握する
ようにしていますが、個々の特殊な状
況まで見ることは健康診断の範囲外で、
健康診断はあくまでマススクリーニン
グであるという点に注意して下さい。
「私はずっと頭痛がしているからド
ックに入ったのに良く見てくれない」
と言ったケースに出会うことがありま
すが、特定の症状が既にある場合には、
当該科に直接受診しましょう。もちろ
ん、問診時に健康診断の担当医に適切
な科や、処置を質問してみるのも良い
でしよう。
■健康診断でわかること
さて、健康診断では、どんなことがわ
かるのでしようか。
海外赴任時などに
行われている比較的総合的な健診を例
に見てみましょう。
まず、身体所見では、著明な貧血や黄
疽、リンパ節その他の腫張がないか、肺
や心臓に雑音がないか、肝臓は腫れて
いないか、等を見ます。
女性の場合は
乳癌の触診も大切な検査です。他に気
になっている部分があるなら恥ずかし
がらずに質問しましよう。
また、普段服
用している薬やアレルギーがある場
合も忘れずに説明して下さい。
ここで
注意したいのは、検査当日は朝食が取
れませんが、胃のパリウム検査がなけ
れば血圧や心臓などのお薬は普段通り
お飲み頂きたい点です。胃の検査のあ
る場合は錠剤がポリープの様に見えて
しまうことがあるため、お薬を持参し、
検査後服用するようにして下さい。
胸部レントゲンでは、肺の異常だけ
でなく、心臓に負担がかかっていない
か、脊椎の状態は正常か、等もチエツ
クされます。
心電図では、心臓肥大や
不整脈がないかを見ますが、狭心症や
発作性の不整脈などは発作の時でなけ
れば異常を捉えられません。
問診など
から疑わしい場合は負荷心電図などの
検査が必要になります。また、不完全
右脚ブロックとか、心室性期外収縮、
などといわれたことがある方は、以前
からあるものであればまず心配ありま
せんが、ご自分の状態を覚えておかれ
ると、万一胸痛発作などで運ばれた際
に大変診断の参考になります。
そして採血。貧血は、胃潰瘍や大腸
ボリープ、もしくは悪性腫瘍があって
そこから慢性的に出血し造血が追いつ
かないことを一番に疑います。
女性の
場合は、子宮筋腫による月経過多が原
因のことも多くなっております。
日本
人の場合胃癌の発生率が高いですが、
二重造影法と言ってバりウムの薄い層
を胃の粘膜上に作る方法により、かな
り早期の胃癌も発見することが出来ま
す。
ここ数年、食生活の欧米化にとも
ない、大腸癌も非常に増えてきました
が、大腸の検査は健診で出来るほど簡
単ではありませんので、検便で出血が
ないかでスクリーニングします。
CEA
という大腸癌のマーカーが追加されて
いる場合もあります。
血液検査でわか
るガンのマーカーには、このほかに前
立腺癌が比較的感度が高く実用的なほ
か、肝臓、膵臓、胆道癌、子宮体癌な
どのマーカーがありますが、残念なが
ら早期の癌を確実に検出できるほどの
ものはまだないのが現状です。
白血球数が少な目、または逆に多め
と言われている方もあるかと思います
が、少ない方で3000/m m3、多い方
で10,000/m m3程度が続いているよう
であれば心配ありません。
血小板とい
う、血液の凝固に欠かせない成分につ
いても同様で、正常で15〜30万/m m3
程度ですが、5万/m m3程度
までは日常生活に支障ありません。
歯磨きや髭を剃った後になかなか出血が
止まらないとか、下肢に小さい赤紫色
の出血斑が出来る等の症状が出たらす
ぐにお医者さんに相談して下さい。
検尿では、軽度の顕微鏡的血尿も、
比較的良く見つかる異常です。
蛋白尿
をともなわず、以前から変化のないも
のは、精密検査の必要のない場合がほ
とんどです。
新たに認められたものは、
腎炎、尿路結石等の疑いを検査します
が、異常の見つからない場合も多くあ
ります。
一方腎臓癌や特に膀胱癌では、
肉眼的な血尿をともないます。また、
蛋白尿は、慢性腎炎や高血圧による腎
硬化症などの可能性があり精密検査の
対象となります。
■危険因子の菅理
ここまでが健康診断の目的のうち、
既に起こっている病気の早期発見、の
部分にあたりますが、次に成人病の危
険因子の管理について見てみます。
数年前までは、総コレステロールの
正常値は250mg/dlでしたが、現在、
220mg/dl、若年者ではさらに低い値
が勧告されています。これは、治療目
標を250mg/dlとした場合、何もし
なかった群と比較して充分な心筋梗塞
の発症率の低下が見られなかったため
です。
実際には、250mg/dl以下で、
他に危険因子のない場合はまず食餌療
法の徹底、それ以上またはそれ以下で
も高血圧や糖尿病など既に心筋梗塞の
他の危険因子を持つ方は、コレステロ
ール合成阻害薬の服用の開始を勧めま
す。300mg/dlに近い方は、かなり高
い部類だと認識して下さい。中性脂肪
に関してはコレステロールほど危険因子
としての因果関係がはっきりしてい
ません。
正常値は200mg/dl程度ま
でですが、300mg/dl以上は大分高いと
思って下さい。
この場合も、食餌
療法の徹底が最優先ですが、同時に
糖尿病などの合併のチェックも必要です。
普通健診では空腹時血糖を見ますが、
初期の糖尿病やその予備群では、空腹時
血糖は正常かその上限程度ですが、
食後の血糖の下がり方が遅延(耐糖能の
低下)します。
そこで、空腹時血糖の
正常上限の方、著しい肥満や高脂血症、
糖尿病の家族歴等のある方は、糖負荷
試験が必要となります。
初めに述べた
インスリン抵抗性に関しては、
糖の代謝は複雑に調節されているため
臨床的に簡便に測定する方法がまだあ
ません。
肝臓の数値が気になる方も多いで
ょう。
お酒の影響を最も表すのは
GTPですが、正常値は60U/l以下
です。50-100U/l位の方は少なくあ
りませんが、この程度ですと休肝日
徹底するとすっと正常化します。
ところが、100U/lを越えると正常化
までの日数がぐっとのび、常に200U/l以上
であったりGOP/GPTの異常をとも
なう場合は要注意です。
肝臓は非常に
予備能力の大きい臓器ですので簡単に
へこたれることはありませんが、逆に
ぎりぎりまで具体的な症状が出ず、そ
の時には成すすべがないと言うことに
なりかねません。
こうしてみてきますと、日頃の簡単
な注意で改善できる危険因子がたくさ
んあることに気付かれると思います。
これらの危険因子そのものは、全く症状
をともないません。
症状が出たとき
は最終像の心血管系疾患になってしま
った時です。
そうならないための健康
ですから、是非充分にフィードバック
して活用していただきたいと思います。
毎年、異常なしでも、万一病気になっ
ときに参考になる貴重な記録です。
また、数字上は正常範囲でも総合判断に
おいて異常と読んだ方がよい値や、逆
に多少上限を越えていても心配のない
場合などの判断の助けにもなります。
集団検診では、コンピユーターによる
フローチャート式の診断がそのまま印
刷されてくる場合もありますので、結果、
の説明をかかりつけの先生などにう
かがって、自分自身のものとしておく
ことをお勧めします。
(執筆:慶応ノースウエスタンクリニック)
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