メンタルヘルス
アメリカ・カウンセリングの現場から

     



    「最近よく眠れません。毎晩お酒を飲んでも眠れないときがあります」「今まで順風満帆にやってきたのに、急に自分の人生に自信がなくなってきました」「仕事のことを考えるとドキドキして胸が苦しくなる」「自分の死を考えることがあります。」

    これは実際に相談にこられた日本の方々の言葉です。アメリカという環境で生活を築きながら精神的な悩みを抱いているほとんどの人は、自分の心の悩みをどう対処していいのか分からず一人で悩みがちです。深刻な問題はもとより精神面でのケアについてどこに行ったらよいか、どういう人に相談したらよいか、そういう一般的な事を含めてここに記してみました。

■うつと不安性障害

    アメリカに来てうつの症状を呈する人は少なくありません。アメリカでの生活は、食生活や生活習慣全般に大きな変化をもたらします。精神的な要因はもとより、生活習慣の変化から起こる生理的要因でも「うつ」は起こりうるのです。また、日本にいる時からうつの症状が潜在していて、こちらで表面化する場合もあります。

    症状としては疲労感がとれず、そのため一日中休んでいることがあります。逆に眠れない場合もあります。食欲がなかったり、逆に異常なほど食欲がわいて体重や見た目にも変化が生じたりします。わけもなく落ち込んだり自分自身を非難しがちになり、仕事や勉強への集中力も減退し、家族や友人との間でも支障が生じてきます。最悪の場合は自殺を考えたり、自殺未遂を図ったりします。

    うつと同様よく見られるのが不安性障害です。一般的に不安性障害の人は、ある状況におかれた時のことを考えるだけで胸が痛くなったり身体が硬直したり、苛立ったり眠れなくなったりします。そうすると仕事・勉強だけでなく日常生活や対人関係にも支障をきたします。不安ゆえに行動範囲が狭まり、外出もおっくうになることがあります。そうなると肉体的にも精神的にも落ち込んで不安と同時に鬱を呈することも少なくありません。日本で言う対人恐怖もこの不安性障害のひとつです。
 
■子供のメンタルヘルス

    大人のメンタルヘルスと同時に注意が必要なのが、子供たちのメンタルヘルスです。 子供は大人のように言葉で表現できない分、自分自身の心の問題も内面化しがちです。アメリカ社会に適応するのは大人より子供の方が早いという世問一般の概念の裏では大人の目からは見通せない子供たちの悩みが存在するのではないでしようか。

    「うちの子は何も間題がないと言っているし、大丈夫だと思う」とおっしゃるご両親でも、家で子供のそばに座って、学校のことや友達のことなどをゆっくり聞いてあげる時間を作ることが大切です。それは子供たちとのコミユニケーションをはかるだけでなく、子供たちとご両親との相互の信頼感を高める大切な行為だと思うのです。外国で唯一自分たちの話を真剣に間いてくれるのは両親だ、という気持ちのある子供たちは、いろいろな悩みや間題にぶつかっても、積極的に受け入れてゆけるのではないでしょうか。

    学校での問題については、小中高と、通常それぞれの学校にスクールカウンセラーないしソーシャルワーカーという人がおり、彼らが子供たちのアセスメントをして、それに応じて他の専門家のアドバイスを聞いたり両親との合同ミーティングを行ったりします。更に専門治療が必要があれば学校の方からセラピストや医師を勧めてくれます。また、家族のケアや対処の仕方についてもアドバイスを与えたり、ファミリーカウンセリング(家族カウンセリング)を持つ機会を作ってくれたりもします。

■心のケアの重要性

    「僕はクレイジーなんだろうか」相談されてきた人のなかにはそうおっしゃる方がいました。自分自身のコントロールがきかないと感じたり精神的に不安定になれば、自分がおかしくなったんじゃないかと疑問に思うのは自然ですし、それに長い人生のなかで自分自身の舵がとれない状態があるのは不思議なことではありません。自分自身がクレイジーかどうかを決める前に、自分自身にとっていい方向に舵をとっていく作業を行なうほうが大切です。

    日本人の方はぎりぎりまでひとりで我慢しがちです。「もう少し我慢すればそのうちよくなるかもしれないから」とか、「自分が悪いのだから、がんばって自分で解決してみる」という方がいます。我慢すればかえって病状が悪化していって、アメリカでは処置しきれなくなる可能性もでてきます。病気になって「自分が悪い」ことなどありません。病気を抱えたまま治療しないでいることの方がよっぽど悪いですし、自分のケアを軽視しているといえます。心の悩みはとかく自分を責めがちです。さきに、自分の人生のなかで自分の舵がきかないこともあると書きました。アメリカで自分が自分らしく生活するために、心のケアを大切にしてください。

    それから、心の病気は家族の理解と協力なしにはよくなりません。ひとりで解決しなくてはと思っている人の多くは家族に迷惑をかけたくないとか、家族の理解を得られないかもしれないと不安を感じています。自分ひとりでなんとかしようと思わないで家族全員に自分の心の苦しさを理解してもらいましょう。


■アルコールや薬に依存する危険性

    眠れない、不安だといって市販の睡眠薬などを安易に使用するのはお勧めできません。市販薬は一時的な症状の解放にはなりますが、不眠の他に根ざしているであろう病気の解決にはなりません。お酒を飲んで気分転換をはかったり不眠解消をはかる人もいますが、これも逆効果です。アルコールは神経や筋肉の抑制作用があるので、最初気分が楽になっても結果としてうつや他の症状を悪化させることになります。また飲酒は耐性を増してくると当然お酒の量も増えてきます。頻繁に「ブラックアウト」(記憶がない時間のこと)を経験したり、飲酒運転や飲酒に関わる法律関係での問題を抱えたりするなど、飲酒自体が問題化してきます。つまり、心の悩みとともに飲酒問題を併発する可能性も高くなるのです。日常生活に支障をきたすようになったらできるだけ早く専門家に相談するようにしましょう。上記のうつや不安障害以外の疾患症状でお悩みの方もぜひ医師に相談されることをお勧めします。


■アメリカでのメンタルヘルスケア

    アメリカでのメンタルヘルスケアには主に精神科医、カウンセラー、サイコロジスト、臨床ソーシャルワーカーなどが携わっています。精神科を訪れるのに二の足を踏むことがあるかもしれません。それならば自分の健康状態を理解してくれているかかりつけのお医者様に相談されるのがいいと思います。もしお医者様の方で専門家にかかったほうがいいと判断すれば、精神科のドクターやセラピスト・ソーシャルワーカーなどを紹介してくださるでしょう。治療は通常保険が適応されます。海外旅行保険でも一定期間内においての治療を補うことができます。アメリカのメンタルヘルスに携わる専門家は、心の問題を抱えている人がその間題を少しでも解決できるようにお手伝いする人達であるということを勉強しておきましょう。


村尾利奈
イリノイ州認定臨床ソーシャルワーカー
薬物依存治療認定カウンセラー

参照:DSM−IV(精神障害診断マニユアル第4版):アメリカ精神医学会発行


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