日本からご赴任されたばかりの方々は米国の複雑な健康保険の仕組みに戸惑いを感じることがしばしばあると思います。国民皆保険制度が徹底された日本とは異なり、米国では民間保険会社の提供する健康保険プランを個人や各企業が加入する形式をとります。この保険プランには多種のプランが存在し、企業向けのプランにおいてはニーズに合わせた柔軟なプラン設計が可能となります。本資料は企業向けの健康保険プラン加入者を対象に米国健康保険ABCの入門編として最低知識をご理解頂けますようご用意致しました。
T. 団体健康保険(GROUP MEDICAL)
勤務先の企業が加入している保険プランを通じて医療費などの健康保険給付を従業員本人とその家族に与えられるプランです。加入対象者は全従業員。新規採用者は採用時もしくは試用期間経過後に加入可能。企業により従業員から保険料の自己負担(一部または全額)をさせる場合もあります。保険による給付内容は治療費、手術費用、入院費用への補填が対象となります。
■健康保険プランの種類
Indemnity Plan(インデムニティ・プラン)
同プランは米国で古くから存在する健康保険プランです。治療費用から自己負担額(DEDUCTIBLE)を除いた金額の一定割合が保険会社から給付され、医師や病院の選定には縛りが一切無く、加入者はどの医師・病院を選んでも一定割合のもとでカバーされます。但し、保険に掛かるコスト(保険料)は他のプランと比べ非常に高い事が理由により、現在では企業向け保険としてはかなりマイナーなプランと云えます。
Managed Care Plan(マネージドケア・プラン:PPO、HMO、POS)
米国の医療費が非常に高いことは周知の事だと思います。年々保険料も比例して上がり続ける中、医療コスト高騰への抑制を図るべくマネジドケアと称されるコスト抑制型プランの開発が1970年代から行われてきました。代表的なプランとして、PPOやHMOと呼ばれる医療サービス提供法人で、あらかじめ医師や病院と標準的な医療費用の幅を設定しておき、指定医や指定ネットワーク(医師・病院の集まり)を利用することにより、比較的低額の医療コストで効率の良い医療サービスを行うことを目的にしたものです。
HMOプランはそれ自体が病院や医療サービス提供機関なので保険加入者は一定の掛け金を払えば、追加の医療費支払いをほとんどすることなく医療サービスを受けられます。但し、利用出来る医療機関が地域的に限定され、“予防医療”をサービスの柱にしていることから医療サービスのレベルは制限され、幾多の問題もあります。尚、HMOは米国西海岸地方(主にカリフォルニア)ではある程度は充実した医療機関を抱えていますが、その他の地域ではHMOへの加入はお勧め致しません。
HMOでは一人の指定医しか利用できないのに対して、PPOプランでは基本的にどの医師や病院も利用できます(Non-Network)。但し、保険会社の提携医療機関(Network)の医師や病院を利用すれば自己負担が軽減され、医療費の支払いを個人で立替える必要はありません。PPOはある意味で従来のインデムニティ・プランとHMOプランの長所を旨く混ぜ合わせたような仕組みとも言えます。
また最近では新種のPOS(Point of Service)プランと呼ばれるプランが開発されて利用者のニーズに対応する保険会社も俄かに増えつつあります。POSはPPOやHMO、インデムニティ・プランの特色を一つのプランでまとめたものです。
それぞれのマネージドケア・プランの特色を簡単に比較してみます
| 項目 |
Indemnity |
PPO |
HMO |
POS |
| 利用できる医師病院 |
全米どこでも |
全米どこでも可但しネットワーク利用が有利 |
指定医療機関緊急時は例外措置がある |
指定医療機関ペナルティ付きで他の機関利用可能 |
主治医 専門医& 病院 |
指定なし 指定なし |
指定なし 原則指定なし |
指定あり 選択不可 |
指定あり 選択不可 |
| 保険料支払い |
保険会社へ毎月 |
保険会社へ毎月 |
HMOへ毎月 |
POSへ毎月 |
| 医療費支払い |
患者が立替える |
ネットワーク医療機関利用の場合は立替えなしCo-Payのみ |
医師・病院への立替えなし |
POS指定医療機関利用する場合は立替えなし |
| Deductible, Co-Insurance等自己負担 |
プランにより異なる |
通常あり。但しネッワ−ク利用の場合、自己負担は少ない |
通常なし |
指定医療機関利用の場合はなし |
■一般的なベネフィット給付内容
上記のマネージドケア・プランのなかで米国ではPPOが広く一般的に利用されています。その理由として、コストが比較的安い上、同プランを利用するにあたって保険クレーム手配や支払い、豊富な指定医療ネットワークの提供等、User Friendlyな点が多くの企業や個人のニーズにマッチしていると言えましょう。以下、一般的なPPOプランの基本的な給付内容をご案内します。
免責額(Deductible)
医療費用の一部を一定額まで自己負担することを指し、Deductibleの金額は企業のプランにより異なりますが、弊社扱いの日系企業顧客での一般的な金額は100ドル〜300ドル(年間自己負担額:一人当たり)です。また、家族で加入している場合にはその数が多くても一定額でストップします。自己負担額は300ドル〜1000ドルが一般です。
自己負担(Co-Insurance)
上記の免責額以外に、自己負担額として一定割合で医療費用を負担する金額があります。上限は年間の自己負担限度額(Out of Pocket Maximum)までの医療費負担であり、これをCo-Insuranceと呼びます。日系企業でのOut of Pocket Maximumは500ドル〜1500ドルが一般的です。例えば、一人当たりの免責額が100ドル、Out of Pocket Maxが500ドルの場合には単一加入者と保険会社との費用分担は以下のようになります。
100% 保険会社負担 |
80% 保険会社負担 |
20% 自己負担 |
| DEDUCTIBLE (100ドル) |
|
暦年で100ドルの免責額を超える支払いがあった場合、免責額支払い後は医療費用の20%が自己負担となり、免責額を含む自己負担限度額である |
500ドルに達すると、その後すべての医療費は保険会社の支払い責任となる。
下線部分が加入者の自己負担
家族で加入している場合のOut of Pocket Maxは一人当たりの何倍かに(一般に2−3倍)の額面となります。
前述の例を用いれば家族ベースでのMAXは(仮に3倍とするれば)1500ドルになり、家族のうち最低3人それぞれが500ドルの自己負担をする事になります。
また、一般的なプランにはCO−PAYと言う支払いがあり、医師オフィスへの外来診察に際しては10ドル、入院の場合には1日当たり100ドルと云うような一定額の自己負担金額も併せて支払います。
Deductibleの翌年度へのCarry-Over(繰越し)
Deductibleは暦年で計算されますから年末になってDeductibleを満たした場合、翌年度は暦が変わるために新たに免責額を満たす必要性が出てきますが、Carry-Overと呼ばれる特約により(オプション)免責額の繰越し操作によりこれを回避させる事が出来ます。
一般には10月1日を過ぎてDeductibleを満たす医療支払いを行った際、10月以降に発生したDeductibleは翌年度にプールされる事になります。
出産費用
米国の連邦法によれば妊娠は一般の疾病を同様の扱いをするため、出産費用は医療保険によりカバーされます。但し、カバーの対象は一般的な出産・分娩費用だけであり、母体がメインのカバー対象となります。健康な新生児のCheckup費用はカバーの対象とはならないため必要に応じて新生児カバーの特約を設ける必要がありますので注意が必要です。
予防費用
通常、人間ドックのような高額になる検査はカバーされませんが、年一回の健康診断や子供の予防接種等についてはプランによってカバーされます。
既往症の免責(Pre-Existing Conditions)
既往症がある場合、保険プランへの新規加入後の一定期間は保険給付が制限される場合があります。但し、他の健康保険に1年以上加入している場合や、他の保険会社から新たに契約を引き継ぐ場合にはこの規定は適用されません。
処方箋カード(Drug Card)
日本では病院の薬局でクスリを購入することになりますが、米国では薬業は独立して運営されるので、医師から受け取った処方箋を持って薬局で購入することになります。この部分では日本から来られたばかりの多く皆さんは戸惑いを感じる点が多いのは事実です。
クスリの費用は医療費用と同様に健康保険からの保険給付対象になり、保険会社発行の処方箋カード(Drag Cardと呼ばれます)を薬局に提示して、小額の自己負担(CO−PAY)にて購入可能です。PPOプランではネッワ−ク中の薬局から購入する事により、クスリを安く購入することが可能になります
II. 団体歯科保険(GROUP DENTAL)
歯科保険は医療保険に比べて利用度が高く、日本人にも特に利用されるニーズの高い保険です。医療保険とは異なり、一年間の給付限度額があらかじめ一定額まで決められております(例えば1000ドルまで)。
給付内容
同保険は予防治療・基礎治療・高額治療の3種類に分かれ、一定のDeductibleの後、各治療について50〜80%のCo-Insuranceがあります。歯列矯正(Orthodontics)はオプションで特約カバーを設けることが可能ですが(Co-Insuranceは50%が標準)、美容的な整形や治療はカバー対象外となります。
(予防治療)
* 口内検査 * 洗浄 * X線、その他 |
(基礎治療)
* 詰め物 * 抜歯、その他 |
(高額治療)
* クラウン * 入れ歯 * ブリッジ、その他 |
保険会社負担 70〜100% |
保険会社負担 70〜80% |
保険会社負担 50% |
自己負担 NONE〜30% |
自己負担 20〜30% |
自己負担 50% |
| 免責額(DEDUCTIBLE) |
| 歯列矯正(オプション特約) |
| 保険会社負担 50% |
| 自己負担 50% |
歯列矯正は18歳以下の子供をカバー対象とし、一定の給付限度額がある。
一般にはDeductibleは0〜100ドル、生涯給付限度額は500ドル〜1500ドル。
V. 視力矯正保険(VISION PLAN)
特約カバーにより視力検査、眼鏡(レンズ&フレーム)やコンタクトレンズ等の費用を一定枠内で給付します。企業の保険料負担は比較的廉価であり、既存の福利厚生プランを充実させ、且つ付加価値を付けるのにはベストな方法です。
W. 団体定期生命保険(GROUP LIFE)
同保険は従業員が死亡した際に遺族に対する所得の一部(もしくは全額)を補償する保険カバーで、日本人の我々には生命保険は馴染み深いものです。契約者は企業自身ですがカバー対象となる被保険者は従業員であり、保険金の受取人(Beneficiary)は死亡した従業員の遺族となります。キーマン保険(企業幹部用生命保険)とは異なり、従業員福利厚生を目的としている故、同保険は企業自身が保険金の受取人にはなれません。
団体生命保険への加入者は連邦法で全従業員の加入が要求され(日本籍の駐在員も)プランへの未加入者や一部の従業員だけに与える団体プランは禁止されています(キーマンへのベネフィットとして別枠の特別プランを与えることは規制対象外なのでOK)。
保険給付
対象カバーは死亡のみ。一般的なプランでは次の2つの形式に分かれます
1. 定額支払い: 従業員一人2万j
2. 給与額に応じる: 年俸の1〜2倍
IRS(内国歳入庁)からの規制
企業が支払う保険料は原則的に損金勘定が可能ですが、団体生命保険の場合、一人当たりの保険金額(保険給付)が5万jを超える分についての保険料は給与扱いとなります。
X. 所得補償保険(DISABILITY PLAN)
仕事から起因した就業中の怪我や疾病は労災保険により医療費のみならず所得補償の給付も受ける事が出来ますが、業務以外での怪我や疾病により就労不能となった際の所得補償を同保険プランでカバーします。対象者はフルタイムの従業員。
所得補償保険プランには2種類あり、STD(Short Term Disability)とLTD(Long Term Disability)とが存在します。
短期所得補償保険(STD)
就労不能となった後、一定のWaiting Periodを超えても回復、復職出来ない場合、通常は26週間、給与の50%〜66%を給付します。ちなみに“就労不能”とは当該従業員の通常業務への復帰が出来ない事を意味します。
以下の5州、1自治国ではSTDが州政府の元(給与天引きの州政府保険、もしくは政府委託の民間保険会社から)で強制加入保険となります。
California, New Jersey, New York, Rhode Island, Hawaii, and Puerto Rico
長期所得補償保険(LTD)
STDによる補償期間を超えても職場復帰出来ない場合にカバーされる保険です。STDでは労災保険との補填割り振りがありますが、LTDでは業務内外の事由を問わずカバーします。但し、労災からの所得補償を受けている場合には重複カバーにはならず、その部分は控除されます。
完全就業不可能となって3ヶ月〜12ヶ月を経過した時点で給付認定が行われ、認定されれば職場復帰出来るまでの期間、もしくは65歳に至るまで継続して正常勤務していた最終給与の50%〜66%が給付額として支払われます。65歳以降は国が提供するメディケアにより補填されます。就業不能の定義は、最初の2年間は通常の業務は遂行できない状態を指し、それ以降は本人のスキルにて如何なる仕事にも就労不可能な場合を云います。
被災従業員が当該保険給付以外で所得がある場合には、その収入を差し引いた金額が給付されます。また、オプションですが特約として、補償期間中に仮に本人が死亡した際は、生存中の最終給付金の3倍に相当する金額が一括され遺族に対して支払われる給付金も存在します。
米国の健康保険制度
ここでは我々が生活するアメリカ国内の健康保険制度の大きなピクチャーを見てみる事にします。保険制度は以下の通り大きく2つに分かれて存在します。
1. 政府支援の公的制度
| メディケア |
65歳以上の老齢者向けの健康保険の給付 |
| メディケイド |
低所得者に対する医療扶助制度 |
| 連邦健康保険制度 |
連邦政府職員、軍人、ベテラン(退役軍人)に対する健康保険の給付 |
2. 民間での私的制度
民間保険会社の健康保険プランへの加入
自家保険プラン
(執筆:Cosmos Services (America), Inc.)
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