20年ぶりのGreat American Ball Park

浦 雅俊さん Quick USA

大人になった自分

20年経って私は今、Great American Ball Parkに来ている。その事実だけで鳥肌が立ち、なんとも言えない感情に包まれている。

当時は中学1年生、まだ12歳で右も左もわからず、英語もままならない状態でOhioに1 ヶ月のホームステイに来ていた。国際交流プログラムで、親元を離れ、一人で新たな家族と時間を共にするためだ。小学生の時から野球をやっており、中学になっても大好きだった野球を継続するため、野球部に入った。その最初の夏休み、新チームとなって大事な時期ではあったものの、「今しか出来ない事」を優先し、ホームステイを決断。その経験の中で特に印象が残っているのが本場メジャーリーグ観戦であり、日本と違うスタイルの球場だった。

海外でのキャリア構築

今でこそ、アメリカでビジネスを行い、いわゆる「海外思考人材」としてキャリアを構築しているものの、学生時代はそうでもなく、普通の高校球児であり、一般的な大学生だった。社会人になってからも、最初から海外で仕事がしたい!という事よりは、入口としては、このまま日本で経験を積んで、将来自分にどれくらいの付加価値がついてくるのか?という漠然としてた不安感から将来キャリアを考える中で、自社に海外子会社がある事を知り、何度か自社内の海外研修にてアメリカに来る事で、よりそのビジョンが明確になってきたという経緯だ。
こちらで勤務をしている多くの先輩方からお話を伺ってみると、遠からずこういった経緯で気づいたらアメリカでビジネスをしていたと聞き、驚く事も多い。我々のビジネスである人材紹介という職業柄、多くの方の人生の歩み、価値観について触れる事も多い。赴任前はアメリカでビジネスをしている方の多くは明確なゴールや目的を持っており、学生時代からキャリアステップをしてきて、海外にて活躍されている方も多いと想定していた。ただ、実際にふたを開けてみると「今」を全力で生きてきて、任されたもの以上にトライし継続して努力をした結果、新たなステップとして海外で活躍されているという方が多く、今まで長期ビジョンを明確に持たずに生きてきた私にとっては、ある種安心感とも捉えられる感情を持った。

NYからILへ

アメリカ赴任が決まり、当初はNew Yorkにて勤務をしていた。New Yorkがアメリカそのものだと思っていたが、今ではNew Yorkがアメリカの中でも特殊な都市だったと感じている。そこらじゅうで嗅ぐマリファナの香り、たびたび起こる銃事件。狭いエリアに多くの人が混在している事である種の活気を感じていたが、毎日特殊な空気感だったなと振り返っても感じる事が多い。社内で新たにIllinoisに拠点を展開する事が決まり、拠点立ち上げのためにNew YorkからIllinoisへ移り住んできた。当初はマフィアのイメージや、治安の悪さ、中西部という日本からするとそこまで馴染みが深くないエリアに不安感もあったが、その不安は一瞬にして過ぎ去った。

Midwest Niceと言われる人の温かみ、街の綺麗さ、治安の良さ。New Yorkと比較しても、また全米の中でも圧倒的に好きな街だと思える。2022年12月に正式にIllinois拠点が開設し、そこからMichigan、Ohio、Indiana等、近郊の州の日系企業サポートを本格的に始動していく形となった。

20年ぶりに訪れたGreat American Ball Park

20年ぶりのGreat American Ball Park は、過去の薄れた記憶を鮮明に蘇らせてくれた。正面から見る球場、センターの奥にあるRedsのシンボルとも言える赤い塔、球場の雰囲気、真っ赤に染まった観客席。その場にいるだけで、新たな活力が湧いてくるのを感じた。強いて違いを挙げるのであれば、当時は楽しめなかった大好きなビールを、大人になった特権とでも言わんばかりに楽しむ事ができた事、そして当時はホストファミリーに連れられていった球場に、今度は自分の家族と一緒に来る事ができた喜びだった。自分の息子はまだ2歳で、将来この記憶も薄れてしまうかもしれない。ただ、大人になって息子ももしこの球場に来る事ができれば、この当時の記憶を細胞レベルで思い出してくれると親としては幸福この上ない。

この日の試合はアウェイとしてLos Angelesから大谷翔平選手が来ており、先発ピッチャーも山本由伸投手。どちらのチームを応援するか迷ったが、大谷翔平選手を近くで観たいという妻の要望もあり、少し奮発してLos Angelesチームベンチすぐ後ろの近くの良い席を確保。懐かしい球場を楽しもうと万全の状態でOhioへ乗り込んだ。ただ、ここはアメリカ。事前に購入したチケットが前日に不具合が生じ、当初予定した席は知らぬ間になくなっていた。チケットブースで交渉するも、そのチケットは無効になっているとの事で、代替案として5階席で良いなら球場へ入れる事ができると言われてしまった。また、途中Stormが発生し、試合は一時中断。大雨と暴風の最中、バックヤードでしばし試合再開を待つ事になってしまった。

「今」を全力で生き、楽しむ

そんな予期せぬトラブルも結果としては、Great American Ball Parkを楽しませてくれる要素となった。当初の席では見る事ができなかった5階席からの景色は、球場奥のオハイオ川とJohn A. Roebling Suspension Bridgeを私に見せてくれた。その景色はまぎれもなく、前回の景色と同様のものだった。また、Stormによる中断も、待っている間に地元の方との会話を通し、20年前は予想もしていなかった現実を実現させてくれたと再認識する事ができた。人生には多くの予期せぬ事が起きると考えているが、その全ての事象に対して「今」を全力で生き、そして全力で楽しむ事で将来が切り開かれていくと考えている。将来ビジョンを持ち、そこに向けて努力をする事はもちろん大切だ。ただ、予定調和ではなく、予定不調和を、想定通りより想定外を楽しみ、その目の前の今に対して全力で挑戦していく事が大事だと考える。今を全力で生きる事が将来へと繋がっていると信じている。アメリカに赴任する事もIllinoisに拠点を構える事も、またGreat American Ball Parkに再度来る事も、昔の私からすれば「想定外」だったのかもしれない。過去の自分には想像もつかなかった今の状況に感謝し、これからも「今」を全力で生き続けたいと思う。