「繋がり」とは、「 祈り」とは、

吉岡 道大さん 三井物産

「しゅうざんのみどーり♪…… 」

我が学び舎、旧・櫛比小学校の校歌の歌い出しである。緑深い奥能登の里山の情景が浮かんでくる。が…、そのあとの歌詞はというと. . . いまも、むかしも出てこない. . . とりあえず、バレないように口パクで歌っているふりをしておく。悪気はまったくないし、就業態度も素行も決して悪くない小学生だったが、今思えば学校や授業(図工と体育以外の)に余り興味が持てなかったのだと思う。校長先生のお話にいたっては、もはや絶望的だった。

そんな私が育ったのは、總持寺という曹洞宗大本山の租院のある旧・鳳至郡・門前町である。字の如く大寺院の門前に開かれた古い町であり、末寺が多い寺町でもある。櫛比小学校もその總持寺の門前にあった。奥能登の海を望み、山河に囲まれ、自然に溢れた美しい町だが、日本の多くの田舎町に違わず過疎高齢化が進み、平成の大合併でお隣の輪島市と一緒になった。由緒も歴史もある町を合併させることに反対の声も少なからずあったが、持続可能な市政の下、町民が健やかに過ごせるようにと旗を振ったのは当時町の助役だった私の父だった。せめての町民の誇りと歴史を残そうと立ち回ったのか、町名は輪島市・門前町として残った。だけど、櫛比小学校は近隣の二校と統合され、いつの間にか聞きなれぬ名前の学校となっていた。“門前東小学校”というらしい。そして、私がついぞ歌いきれなかった校歌も新調されたそうだ. . . 勝手なもので、それはそれで独りよがりに置いていかれた気分になったものだ。

そんな母校が名前をかえて直ぐの2007年3月に能登半島地震が襲った。いまから18年前のことだ。震源は輪島市沖、マグニチュード6.9という大地震だった。多くの家が倒壊し、町のシンボル、總持寺も大きく傷ついた。能登の人々はそれでも、粘り強く実直と表される気質そのものに一生懸命に生き、里山、里海を愛しつづけ、20年ほどの時を使って復興をなしとげていたのである。そしてまた新しい年を迎え、そのときも、ささやかな乍らも新しいかたちの町の発展を祈っていたはずだ。

がーーーー、2024年1月1日午後4時10分ーーーマグニチュード7.6。能登を再び、いやさらに大きく恐ろしく襲った大地震は、能登の里の人々の祈りを打ち砕いたーー

あれから一年。無慈悲な豪雨にまで見舞われ、地域の復旧の歩みは鈍く、人口流出がつづき、過疎化がもっと加速する懸念が強まっているという。千枚もの田んぼが日本海まで続いていた棚田の絶景は崩れた。隆起した海岸線は地域の生活を支えてきた天然のり畑を干上がらせ、輪島の海女ちゃんたちを海から揚げた。千年もの間、海の幸々を並べ続けた朝市通りは焦土と化し、そして、門前町の總持寺は再び. . . 崩れてしまった。粘り強く復興を祈ってきた町のおじいちゃん、おばあちゃんたちの心さえ折ってしまったのである。実は私の実家もてら町の寺々のそのひとつ。歴史だけふるい寺院で、小さいころは、そんな町の檀家のおじいちゃん、おばあちゃんに育てられた。だから、私にはおじいちゃん、おばあちゃんがやたらたくさんいた。「能登はやさしや土までも」、みんな優しく逞しかった。高齢なのに矛盾しているかもしれないが生命力が強かった。厳しい自然の中で生きてきた力なのだろう。そんな彼らがずっと祈りを捧げてきた御堂も倒壊してしまった。

誰の何の為の祈りだったのか。皮肉にも感謝し育まれてきた自然そのものがもたらした業に「もうここには住めない」といわしめ、画面の中に見つける丸まった姿に言葉が見つからなかった。それでも、日本全国からのボランティアの応援、国も超えて集まった寄付金、頑張れとの祈りが重なり、少しずつ、歩みは遅くとも、少しずつ、もう一度復興への力となり、能登の未来への歩みが再び始まっていると伝え聞く。新年の初詣、神社・寺院には「強く生きる」「地域を守る」「能登で恩返しをする1年にしたい」、そんな祈願が並ぶ画がみえた。輪島市では21歳になった若人たちがあつまり、一年遅れの二十歳の集いの式典が開催されたそうだ。「輪島で育った誇りを糧に感謝を忘れない大人になりたい」。そうテレビのカメラの前で明るく語る子の笑顔が印象的だった。

JCCC基金を通じて為された義援金も、きっとそんな能登に残ることを選んだ人が前を向ける一年にするのに、大きな、大きな力となっていると信じて疑わない。そんな繋がりに感謝し、「能登らしい」復興、能登が続いていくためのまちづくりをどうか、祈りたい。そして、子供たちが故郷の校歌をいつまでも歌い繋ぐ町であってほしいと、祈る(おまえが言うな、という話だが。)

「アテの大地に春が来る♪ 希望の光、背に受けて。未来に向けて走り出す、夢の学舎♪」

門前東小学校”の校歌だそうだ。

実をいえば、私は宗教への関心が薄い……小学校の時の授業と同じくらいにだ……でも、敢えて、このシカゴの地で手を合わせ祈りたいと思う。

繋がりに感謝してーー合掌