複雑・混沌の時代を生きるために必要なセルフアウェアネス( 自己認識力)
COVID-19 という、想定外の先行きの見えない危機は、世界規模で多くの人々の健康や生活を直撃し、経済、政治に大きな衝撃をもたらしています。ビジネスにおいても刻々と変化する状況に対応するには、法律、財務、人事の面から様々な施策を次々に打たなければなりません。いつになれば社会が元通りになるのか、終わった後の経済状況がどうなるのか、不安はつきません。調達、サプライチェーン、営業、人事、ほぼすべての領域でこれまでの手法の再考が問われる中、打てる手は全部打っておきたい、という気持ちになられるでしょう。こんなとき、ヒントになるのが経営コンサルタント、デーブ・スノーデンが開発したカネヴィン・フレームワーク(Cynefin Framework)。Cynefinとはウェールズ語で「棲息地」を意味し、現状をどのようにとらえて、どのように考えて行動したらいいかを探ります。このフレームワークは何が予測可能で、何が予測できないものかに分け、予測可能なものを更に単純/困難な領域に、予測不可能なものを複雑/カオスに分けています。
COVID-19 危機は、予測できない、複雑な領域、あるいは混沌としたカオスの領域です。この領域は「やってみなければわからない」「解がない」という状況ですので、プロセスや構造、人事制度といった組織のハード面でなく、ソフト面、すなわちメンバー間の深い信頼関係が非常に重要になります。全米労働人口の62%がリモートワークになり、働き方も組織運営の手法も大きく変化することが迫られる中、ギャラップの最近の調査では、信頼、思いやり、安定、希望があれば、組織は混乱の中でも驚くほどレジリエンス( 回復力・再起力)を持つとされています。
予測できない状況の連鎖の中で、これまで持っていた前提を手放し、個人と組織のレジリエンスを高めていかなければならない今回の危機は、複雑な課題に対処するために、お互いの状況に深く共感し理解し合うことが、今まで以上に必要とされます。視点を変えれば、私達ひとりひとりが、リーダーとして、人間としての在り方(Being)を見直し、成長する絶好の機会でもあります。
その機会を捉えるカギが、自分自身の心と感情に向き合う、「セルフアウェアネス」(自己認識力)です。自己に意識を傾け、自分の感情、強み、弱み、欲求や衝動などを深く理解することです。セルフアウェアネスの高い人は、自分の感情が自分自身や、他者、仕事の結果にどんな影響を与えるかを認識しているので、より強い信頼関係を築き、適切な判断を下すことができます。数多くの研究で、不確実で複雑、混沌の時代には、セルフアウェアネスがリーダーシップの必修科目であることがが示されています。
セルフアウェアネスを高めることで、非建設的な思考を捨てて、迅速にバランスを取り戻すことができ、他者と効果的に協働できるようになります。危機対応に追われる中、時間がないからといって自分自身の感情を無視し押し殺していては、他人の感情に気づくこともできません。私はこれまでリーダーシップコーチとして、仲間たちと協力して、幅広い業界のリーダーたちにセルフアウェアネスを高めるための取り組みを提供してきました。今回はその中から、STARモデルをご紹介します。自分の感情のパターンに気づき、それを俯瞰し、受け入れ行動につなげるモデルです。
STARモデル
1. STOP(立ち止まる)
不安、落胆、いらだちなどのネガティブな感情に気づいたとき、その感情を無視せず、意識を向け、ありのままに受け止めます。「メールが多すぎる」「video会議ばかりで集中できない」など、どんな感情も、立ち止まってそのまま、受け止めます。
2. TUNE-IN( 感情に波長を合わせる)
ネガティブ感情にもう少し目を向け、それが起きる理由や、感情と身体感覚との繋がりを探ります。「メールが多すぎて、肩が重くなった」「パソコンの画面ばかりみているので、目が辛い」など、身体は私達をストレスから守るために、様々なシグナルを送っています。しかしビジネス環境では、私達は思考を優先させ感情に目を向けず、身体からのシグナルを無視する傾向があります。様々な学術調査が、感情と身体感覚には深い繋がりがあること、特にCOVID-19 のような複雑な状況では、身体シグナルへのアウェアネスを高めることが効果的であることを示しています。
3. ALLOW/ACCEPT( 受け入れる)
ネガティブ感情をそのまま、受け入れ、自分から引き剥がします。
4. Reflect( 内省する)
感情と身体感覚から心をほどき、自分の心の「いま」を見つめます。私達は誰もが、特に自分自身が弱さを持ち、互いに依存しているという事実を容易に忘れがちです。STARモデルを使っ
て自分の感情への意識と理解を高めると、周りの人や物事が良く見えるようになり、危機の中にも、希望とチャンスに満ちた可能性を見出すことができるようになります。
3分でできるステップですので、皆さんの心身の健康のために、ぜひご活用ください。
宮森 千嘉子
文化と人に橋をかけるコーチ/ファシリテータ
Hofstede-Insights Japanファウンダー/取締役
マスターファシリテータ
Pontevalle パートナー